2026年1月の個人的音楽セレクション
2026年1月に個人的に楽しんだ音楽のセレクション。多様なジャンルから選んだお気に入りのトラックを紹介します。
2026年1月に個人的に楽しんだ音楽のセレクションを紹介します。多様なジャンルから選んだお気に入りのトラックをお楽しみください。
1. Vaundy - “忘れる前に”
Vaundy、昨年9月のデジタルリリースのシングル。踊れる曲と刺さるメロディの両方の曲を作れる彼の才能のうち、この曲は後者のタイプ。歌詞もメロディも心に染み入る。
どこか懐かしさを感じさせるサウンドと、切なさを帯びた歌詞が絶妙にマッチしている。懐しく親の車の後部座席で感じるあの感覚を思い出す一曲。
メロディは言葉が自然に乗る中域をすり抜けていく。駆けたり跳ねたりはしない。でも少しずつ景色が変らないで温度が上がっていく感じが良い。
グラデーションで少しずつ変わっていく、それがこの曲の魅力だと思う。
歌詞はタイトル通り、「忘却」とか「手遅れ」の気配を抱えている。
「夢から覚めて忘れる前に」「目を擦り書き留めて忘xれる前に」——今ここで言葉にしないと、消えてしまうものがある。そういう切迫感が、息継ぎの位置まで含めて音になっている印象です。
サウンドは過密じゃないんですよ。音数が多いわけじゃない。でもボーカルの間の取り方、抑揚の付け方だけで、十分ドラマが立ち上がる。これが「歌の強さ」ってやつだと思います。
2. Tele - “花瓶”
谷口喜多朗のソロプロジェクトですね。この曲は2022年4月27日に配信リリースされて、同年6月1日発売の1stアルバム『NEW BORN GHOST』に収録されています。
Teleは2022年1月に「バースデイ」でスタートして、「私小説」「夜行バス」と毎月シングルを出していった。「花瓶」はその4曲目、4ヶ月連続リリースの締めくくりにあたる曲です。
それまでのTeleはバンド時代を継承するようなロックサウンドが主軸だったんですけど、「花瓶」で大胆にポップスの要素を取り入れてきた。
バッハやビートルズ、さらにはポケモンのBGMまでリファレンスにしたという話があって、サンプリング的な手法を使ってるんですね。
だからイントロから耳なじみのいいコーラスが入ってきて、頭から離れないメロディが満載。
Aメロは抑えめで、サビに向かって少しずつ音が増えていく。息遣いが強くなっていく。“感情が追いつけなくなる手前”を演出してくるんです。
2番のBメロではポエトリーリーディング風のラップからムーディーな歌唱に流れ込む——そういう遊び心も効いています。
歌詞は比喩が強い。
「花瓶」って、飾る/飾られる、空っぽでも形だけは残る、割れたら戻らない——そういう意味の層を持った言葉ですよね。
それを使って、人間関係の温度差とか、自意識の裂け目を描いてくる。最終的に、具体的な痛みに回収される感じがあるんです。
3. レトロリロン - “アンバランスブレンド”
2024年10月9日にデジタルシングルとしてリリース。
レトロリロンは2020年6月に東京で結成された4人組。涼音がボーカルとアコースティックギターを担当していて、このジャケットも涼音が原案を手掛けています。
曲名からして勝ってるんですよ、「アンバランスブレンド」。
音もその通りで、甘さと苦さ、軽さと重さが”混ざりきらないまま成立している”のが魅力です。
ラブソングを思わせる歌詞の中に、現代社会への疑問を内包させているという——レトロリロンらしいアプローチの曲ですね。
メロディは耳なじみがいい。
でもコード感やリズムのノリが少しだけ捻れていて、そこがタイトルの「アンバランス」に繋がっている。
シングルとして手に取りやすいポップさがありつつ、バンドの質感はかなり丁寧。春夏に10本以上の大型フェスに出演して全国を回ったあとの、この曲のリリースだったんですね。
歌詞は、断言しすぎない。
割り切らない言い方を選ぶことで余韻を残すタイプです。“わかりやすい正解”を提示するんじゃなくて、日々の感情の濁りをそのまま肯定する方向に寄っている。
男女のすれ違いを描いたMVも公開されていて、その映像もまた、曲の持つ曖昧さを映しています。
4. 新東京 - “ポラロイド”
新東京「ポラロイド」。2023年2月6日に配信リリース、同年6月3日発売の4th EP『新東京 #4』に収録。
新東京は2021年8月に「Cynical City」でデビューして、EPを積み重ねてきたバンド。
2024年2月には1stフルアルバム『NEO TOKYO METRO』も出していますね。
「ポラロイド」は、それまでの新東京の曲とは一風変わった、サウンドも歌詞も明るい楽曲——という触れ込みだったんですけど、聴いてみると、その”明るさ”の奥に淡い切なさがある。
作曲は田中利幸、作詞は杉田春音。メロディは都会的で、言葉の切り方もスマートなんです。
リズム隊と鍵盤(あるいはシンセ)の噛み合わせが精密で、写真=瞬間を切り取るというテーマと、音の”切れ味”がリンクしている。
「このまま消え去ってしまう淡い記憶がきっと私を救い出す」——そういうフレーズが、曲のコンセプトをそのまま言葉にしています。
歌詞は情景が先に立つんですよね。
感情は少し遅れてついてくる。だから聴き手は、あとから「あ、これ寂しさの歌だったんだ」って気づく。
その遅効性が”ポラロイドの色褪せ”っぽい。写真が現像されるまでの時間差みたいなものを、曲の構造で再現している気がします。
実に巧妙な作りでおもしろい。
5 Billyrrom - “Bon Voyage”
2025年11月5日リリースの3rd EP『Jupiter=』に収録。 Billyrromは2020年結成、東京都町田市出身の6人組。“TOKYO TRANSITION SOUL”BANDを名乗っていて、ソウルとかファンクの要素をモダンに昇華したサウンドが持ち味。
この曲はもう、リリースがいつであれ、アルバムのどこに入っていようが、“出航曲”としての機能が強い。(実際に1曲目なんですけどね)
ギターのカッティングやベースの跳ねで、曲が前に前に進んでいく。タイトルが「Bon Voyage」——「良い旅を」ですからね。そのまんまの推進力がある。
メロディは上向きで、サビのフレーズが景色を切り替える役を担っている。
EP『Jupiter=』には「Funky Lovely Girl」「Hold Me Tight」「Stained Glass」「Unknown Island」と並んで収録されていて、
1曲目がこの「Bon Voyage」。つまりEP全体の扉を開ける役割も担っているわけです。
歌詞は旅立ちの言葉を借りつつ、実際には「同じ場所にい続けることへの抵抗」みたいなものが滲む。
軽快なのに、微妙に焦りや背伸びが混じる——それが”良い旅を”の裏側を作っています。6人編成のバンドならではのグルーヴの厚みも、この曲の推進力を支えていますね。
6. Offo Tokyo - “哀とアイスブルー”
2025年4月23日にリリース、2ndデジタルシングルです。2025年3月16日、下北沢ADRIFTで行われたツアーファイナルで、この曲のリリースが発表。
これは音色の勝利です。
公式の説明によると、「潤んだ都会の喧騒と、シーサイドドライブの疾走感を想わせる」サウンド——シンセや空間系の処理が、タイトルの”アイスブルー”をそのまま温度として聴かせる。
冷たいんだけど、キンキンに冷えてるわけじゃなくて、どこか潤いがある。
メロディは滑らかで、語尾の落とし方に冷たさが残る作り。
作詞はHiiraとShota Kaya、作曲・編曲はShota Kayaが担当。
Offo tokyoは2019年に下北沢で結成されたクリエイター集団で、2021年夏からHiira(Vo)、Shota(Gt&Sax)、Seiya(Keys)、Nemo(DJ)の3人+猫1匹という編成で活動中。
シティポップにソウル・ロック・ヒップホップを組み合わせた”ネオ・アーバン・Jポップ”を掲げています。
2025年2月のメジャーデビュー曲「Your Song」は、テレ東ドラマ「マイ・ワンナイト・ルール」EDテーマに起用され、全国30局以上でパワープレイされました。
歌詞は、泣き叫ぶんじゃなくて、冷えたまま整理していく悲しみ。「哀とアイスブルー色の思い出は有限さ」「淡淡。きっと瞬くようなこの刹那と青春を戻せはしないのに」——色で感情を固定するタイプの書き方が多いんです。
聴いたあとに「情景だけが頭に残る」感じになりやすい。夜の帰り道、シーサイドを走るときに強い曲です.
7. Bialystocks - “言伝”
2026年1月5日に配信リリースされたばかりの新曲です。
FM802「MUSIC FREAKS」でフル尺初オンエアされた曲でもあります。
Bialystocksは2021年に1stアルバム『ビアリストックス』、2022年に2ndアルバム『Quicksand』、2024年には3rdアルバム『Songs for the Cryptids』をリリースしてきたデュオ。
この曲は、アルバムの中で”芯”になり得る種類の曲。メロディが大きく、息が長い。ボーカルの線が太いのに、声色は繊細で、そこにピアノやストリングス的な広がりが乗ることで、音楽が”語り”を始める。
Bialystocksってそういうスケール感のある曲を作るんですけど、「言伝」はその資質がストレートに出ています。
歌詞は、伝えたいことがあるのに、言葉が届く前に変質してしまう——その怖さと優しさの両方を扱っている。
「言伝(ことづて)」って、誰かを介して伝える言葉のことですよね。直接言えない、でも伝えたい。その距離感が、曲全体のトーンを決めている。
派手な比喩ではなく、言葉の配置と間で感情を動かすタイプなので、聴き込むほど効いてきます。
8. Sabio feet. 重音テト - “餞に愛を”
2024年4月頃にニコニコ動画に投稿され、2025年7月18日リリースのアルバム『more than words』に収録。
sabioは高村風太名義でも活動しているボカロP/アーティスト。
ネット発の曲らしい、エネルギー密度の高さがまず来る。
バンドサウンド寄りの疾走感に、重音テトの声が”人間じゃないからこそ出せる強度”で乗ってくるんです。
Synthesizer Vを使ったテトのボーカルは、どこか機械的でありながら、感情の振り幅が人間以上に大きく聴こえる。
メロディは高低差が大きく、サビで感情が振り切れる設計。
「旅立つ君にはもう必要のないものだとしても」——そういうフレーズが刺さります。
歌詞は「餞(はなむけ)」という言葉を真正面から使いつつ、優雅に送り出すというより、愛と未練と怒りが一緒に噴き出す。
別れの歌というより、別れの”直前の体温”を封じた歌。旅立つ相手に対する、行かないでほしいという気持ちと、でも行けという気持ちが、同時に音になっている。
そういう複雑さを、テトの声が一本に束ねています。
9. TIDE - “Day Drip”
2025年9月24日にデジタルシングルとしてリリース。
TiDEはLASTRUM所属のバンドで、同年12月にはEP『胎動』もリリースしています。
この曲は生活に溶ける曲。プレイリストの中で自然に呼吸できるタイプです。
公式の説明によると、「何気ない日々の出会い、経験、感情を心(=精神的)の旅として映し出した1曲」。
タイトルの「Day Trip」は日帰り旅行のことですけど、物理的な移動というより、心の中の小さな旅を指しているんですね。
ビートは主張しすぎず、コードも丸く、メロディはささやくように進む。
新進気鋭の映像監督・井上青が手掛けたMVも公開されていて、その映像もまた、曲の持つ穏やかな浮遊感を映しています。
歌詞は”出来事”というより”時間”を書いている印象が強い。
コーヒーが落ちるみたいに、日中が少しずつ染みていく——その比喩を音の質感で支えていて、聴く側の心拍をなだらかに整えてくれます。
バンド初のMVでもあるそうで、ここから広がっていく彼らの世界が楽しみです。
10. 椎野味醂 - “まだ知らない君がいる!”
2025年8月23日、ボカコレ2025夏に投稿され、同月29日に配信リリース。
椎乃味醂(sheeno mirin)は2003年生まれのボカロP/音楽家で、wowakaを最も尊敬する音楽家と公言しています。
wowaka同様、曲名でしりとりをしているという話もありますね。
この曲は情報量が多いのに、ポップとして成立するギリギリの線を攻めてくる。
初音ミクと重音テトのデュエットで、展開の切り替えが速く、音のレイヤーが厚い。
メロディも一筋縄ではいかないけど、要所で”歌えるフック”が置かれていて、聴き手を置いていかない。
椎乃味醂は2024年に2ndアルバム『解釈系』とEP『ハーモニー』をリリースしていて、Reolとのコラボ曲「モザイク」も話題になりました。
その流れの中で、ボカコレ夏に投稿されたのがこの曲。タイトルの末尾にある「!」が、この曲のエネルギーを象徴しています。
2025年8月23日、ボカコレ2025夏に投稿され、同月29日に配信リリース。
初音ミクと重音テトのデュエットで、情報量が多いのにポップとして成立するギリギリの線を攻めてくる曲です。
椎乃味醂はwowakaを「最も尊敬する音楽家」と公言し、曲名のしりとりまで継承しているアーティスト。
でも、この曲はその敬意の裏側にある苦悩を歌っているように聴こえます。影響を受けすぎた先で、自分の表現とは何なのかがわからなくなる——そういう創作者の実存的な問いかけ。
「迷い方を忘れてしまっている」というフレーズが何度も繰り返される。
かつて持っていた「粗雑さ」「行き当たりばったりな指標」「無統制」。それが「妙に整理されたアイデンティティ」になっていく。
これは時代への批評であると同時に、自分自身への問いかけでもある。wowakaを「正しく」継承しようとすればするほど、自分の迷い方が消えていく。
「神を気取った運命の偽装から、零れ落ちていく誰かの創造を想う」——最適化された創作の外側に、まだ誰にも見つかっていない表現がある。
そして「まだ知らない君がいる」は、外側の誰かだけでなく、まだ発見できていない自分自身にも向けられている。wowakaの影ではない、椎乃味醂としての「未知の自分」がいるはずだ、という祈り。
「正しさだけじゃなかったあの頃」——それは影響を受ける前の自分、あるいは影響を受けながらもまだ整理されていなかった頃への郷愁。
影響の不安と、それでも自分の創造を信じたいという意志。その両方を抱えながら、タイトル末尾の「!」でポップに駆け抜けていく。軽さと重さが同居した、ボカロシーンの現在地を示す曲です。